福島原発の事故が原発の安全性神話を破壊したことは事実でしょう。しかし、日本政府は安全性の改善を検討するという態度で、廃棄まではまだ考えてはいないようである。日本などより事故の危険性の低いドイツもスイスも原発全廃に踏み切った。おそらく技術的に完全に安全な原発はあり得ないし、とくに地震国日本では、事故の可能性が大きいのは事実なのであるから、早急に原発全廃(直ちに無理だとして、そういう意思とそれに基づく廃止計画策定を)に向けて動き始めねばならない。
しかるに政府も電力会社も原発を放棄するには至っていない。日本国民のかなりの部分もまだ原発全廃には与していないようである。それには、まだまだ原発擁護の様々な 議論が提出されているという理由もある。その第一は、原発がなくなれば、日本のエネルギ−供給が不足し、停電などが起るぞという脅しである。これへの反論はすでにここでも議論したし、多くの人が行っているのでこれ以上は言及しない。
もう一つ別の原発擁護の議論は、放射能汚染と健康被害を過小評価して、事故が起っても、大したことはないのだよという説得である。例えば、広島、長崎にあの後、人が住んで十分に普通の生活をしているではないか、だから放射能の影響は現在騒がれているほどのものでないのである、という議論である。広島、長崎で人々はもう普通の生活をしていることは事実である。しかしあの原爆爆発後の放射性物質がどの程度、広島、長崎に残っていた/いるかについての十分なデータがなければ、ただ単に人はほらちゃんと生活できいるではないかといっても放射能物質が健康へ被害を及ぼす可能性を否定することにはならない。原爆後数年間のうちに内部被曝した人達は、いわゆる原爆後遺症に悩まされ続けたことは事実で、放射能の健康被害は明瞭にあったのである(この詳細については例えばhttp://blog.goo.ne.jp/saypeace/e/e7c0c4fb14788871a6c370f4284771c1参照)。しかし、現在では、放射性物質の存在量は、すでに影響を及ぼす程度以下になっているのであろう。
次に、日本で原発擁護によく使われる論理に、ガンは老齢になるにしたがって発生率が上がる、そして日本は高齢化社会になったためにガン死が多くなっている(ガン死亡率が高いことは事実)。福島原発事故の結果予想されるガン死亡率の上昇(これがどのようにして予測されたか、その正当性の検証は別)は、こうした日本のガン死亡率の大きさと比べると無視できる程度というのがある。だから問題にするにはあたらない。この論理には、ガンが高齢になるしたがって、自然に発生するものという前提がある。そんなことはない、ガンには原因がある。様々な原因があるが、バックグラウンドの放射能が、ここ70年ほどの間に、原爆投下、原爆実験、原発事故、原子力潜水艦事故、劣化ウラン弾使用などなどにより、上昇していることもその一つであろう。その他には、様々なガン化を促す物質の環境への放散もあるが。そしてこの論理で見逃されているのは、幼児のガン発生率の上昇である。その上に、最も顕著な事故であったチルノブイリの、その後の人々への健康被害は、公には、かなり過小評価されて報道されている。
さて先(http://vsa9.blogspot.com/2011/04/blog-post_24.html 落合日刊ベリタ2011.04.25)に、人間が自然からの放射能に晒されていることは事実であり、それでも人間は通常に生きているという現実に基づいて、しきい値的な数値を出してみた。それに基づいて、現在様々な状況下で許容されている基準値なるものの危険度を検討してみた。次の議論(落合日刊ベリタ2011.05.04)では、 内部被曝における放射線の影響の機構を考えてみた。そこでは、放射線粒子と体内分子の相互作用が内部被曝の健康被害の基礎であることに基づき、いかに放射線粒子が生体物質を破壊するかを検討した。このような観点に立つと、先に述べたしきい値以下でも、その影響があることは確率的にゼロではないことがわかる。これは、自然から受ける(いわゆるバックグラウンド)放射能でも、例えばガンになる確率はゼロではないし、ガンの近年における増大は、先にも述べたように、このことが関係していると考えられる。これを科学的に立証することは殆ど不可能である。しかし不可能だから無視してもよいということにはならない。
人間に出来ることは、そうした(放射線汚染による)影響を人類や他の生物の健康に及ぼす可能性のある、原爆、劣化ウラン弾、原発などを廃止し、代換エネルギ−を開発すべきなのである。どうして原発を擁護するような理屈を持ち出す必要があるのか。原発がなくとも人間社会はちゃんと機能するし、人々が安心して生活ができる。そのほうが良いのではないだろうか。
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