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6.17.2011

放射線被曝量のエネルギ−値はそんなに小さいの, なのになぜ危険なの?

先に、「被曝量数値の意味するもの」という議論をこの欄でご覧いただいた(日刊ベリタ2001.04.25)。そこでは、被曝量のしきい値のおおよその値を出してみて、それに基づいて、現在許容されている被曝量数値を検討してみた。
ところで、β線、γ線では、Gy(グレイ)=Sv(シーベルト)、α線では、Sv=20Gyであり、1Gyは、1kgの物体(人体)に1Jのエネルギーを与えるものということは周知されているものと思う。そこで、“1Gyとか1Svとかがどの程度のエネルギ−かを考えてみると、1kgの水ならば、その温度を0.00024度上げる程度の極く小さいエネルギ−である”という解説をよく見かける(Jは、カロリーの4.18分の1)。この計算にもGyやSvの定義にも、間違いはない。本当にそうならば、1Svなんてとても危険とはほど遠い、少量のエネルギ−で、危険などと大騒ぎする必要なんかないではないか。ということになる。この論理にどこか間違いがありますか。しかも現在問題になっているのは、Svではなく、その1000分の1のmSvのレベル、またその1000分の1のμSvのレベルである。それならなおさら、問題にするほどのことではないではないか。しかし、先の記事( 日刊ベリタ2001.04.25)で議論したように、0.2μSv/h(h=時間)が一応の危険のしきい値となる。どうしてそんなに小さなエネルギ−が問題になるの?この謎というか理由を今回は検討してみようと思う。
まず、先の通常行われる説明(1Gyは、水1kgをわずかに0.00024程度上げるエネルギ−である−これは正当である)は、放射線粒子(電子、光子)からのエネルギ−が、サンプル(この場合は1kgの水)に当たった時、直ちにこの水全体に均等に分散することを前提にしている。この仮定は妥当であろうか。放射線粒子は、かなり小さい部分に集中する(特に放射性微小粒子による内部被曝のような場合)し、そのエネルギ−は直ちにはサンプル全体に分散しないのではなかろうか。これが一つの疑問。何しろ、生体内の事情は複雑である。まず、生体1kgといっても、その中には、水あり、様々な分子あり、また様々な組織(臓器)、細胞ありきで、放射性物質がどう分布するかなど特定は困難である。
さて、放射線粒子がたまたま特定の1分子に当たったとするとどういうことになるかを考えてみよう。放射線粒子はそれぞれ固有のエネルギ−を有している。それは様々で、β、γ線ではおよそ、5KeV-5MeVほどである。議論の都合上、その真ん中辺をとって500KeVとしておく。これは、8 x 10^(-14)Jに相当する。これが放射線粒子1個のもつ平均的(平均そのものではない)なエネルギ−である。(ということは、mSv(mGy)は、約10^(10)個(Bq)の放射線粒子、μSv(μGy)は約10^(7)個(Bq)に相当する。この換算計算はICRP(国際放射線防護委員会)の原理とは異なり、直接的な換算である。)
この放射線粒子のエネルギーを、化合物の電離エネルギ−(イオン化エネルギ−)や、結合エネルギー(分子中の原子間をつなぐエネルギ−)と比較してみる。電離エネルギ−は、千差万別だが、多くは約2000kJ/molぐらいまでで、1分子(原子)あたりにすると、約3.4 x 10^(-18) J。また結合エネルギ−も500kJ/mol ほどで、1結合あたり8 x 10^(-19) Jぐらいである。これらの数値を比較すると、放射線1粒子のエネルギ−は、こうした化合物1分子を壊す(電離とか結合を切る)に必要なエネルギ−の数万倍から十万倍ほどの大きさである。生体内の物質のおよそ80%は水であり、大部分の放射線粒子はその水に吸収されるのだろうが、その大部分は熱となって放散するだろうし、それほど重大な結果にはならない。しかし、時には(例えば10^(-7)以上の確率があれば)で、分子から電子を蹴り出したり(電離)、化学結合を切ったりする。例えば、健康に直接繋がる分子DNAの一部を電離させたり、結合を壊したりしてDNAを壊す。これは、1μSv の被曝量で起こりうる。しかし、この確率がもっと高く、例えば、10^(-5)ならば、0.01 μSv の被曝でも起る。この確率は、放射性物質の存在状態、周辺の生体物質の存在状態などなどの関連性で決まるのであろうが、推測することは不可能である。しかし、分子を電離させたり、結合を壊したりする確率は、当然のことながら、Bq値が上がるほど大きくなる。もう少し一般的な放射線の作用は、水を分解して、活性酸素を作ったり、細胞膜の分子の結合を切って、反応を起こさせ、もろくしたりする。こうした作用の起る確率は、特定DNA分子に衝突するより遥かに高いであろう。こうした生成物はさらに他の反応を起こし、細胞に不都合な状態をもたらすこともある。他にももっと様々な反応もあるであろうが、まだ十分には解明されてはいない(可能な反応の一応の解説はあるー http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=09-02-02-10)。
しかし、先の記事(日刊ベリタ2011.04.25)でも述べたように、生体にはある程度の修復能力(DNA修復や、活性酸素失活酵素とか)はあるので、その範囲内ならば、生体は、放射線によって引き起こされた傷を癒したり、有毒化合物(活性酸素も含む)を解毒できる。しかし、この過程でも、直ぐには修復されないが、すぐには負の効果を現さないないような傷もあり得るし、それが被曝の継続で堆積して後に健康に被害を及ぼす可能性もある。
以上、正確で明白な議論はできないが、Gyとか、mSv、μSvなどの数値は、エネルギ−値としてみる時、随分小さい値にみえるが、個々の放射性粒子と個々の分子との相互作用を考慮するならば、決して小さいどころか、かなり大きいエネルギ−値(分子を破壊するに必要なエネルギ−よりも数桁も大きい)であることを示した。そして、内部被曝では、こういう相互作用が起っていて、ここに放射線が、人体(一般に生体)にとって危険な原点がある。
(日刊ベリタ2011.05.04より転載)

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