この年は,天然異変や地球温暖化の影響かと思われる異常気象が世界の多くの地域で多大な被害を及ぼした。ハイチの地震は多数の死者を出し、その後の復活もはかどらないうちに洪水に見舞われ、そして恐れられていた「コレラ」の蔓延となった。コレラ流行にはまだ終息の気配がない。モスクワを中心とするロシア西部は、記録的な、長期にわたる超高温に見舞われた。日本の夏も、長期にわたって高温が続いた。そして、パキスタンの大規模な洪水。年末にはローロッパの広範囲にわたって、異常な寒気がおそった。南半球では、オーストラリアでの洪水。その他多数の天災地変(火山爆発など)。
しかし、人災も大きかった。メキシコ湾の英国石油の原油噴出事故。噴出を抑えることには成功したが、大量に吐き出された原油の回収と回収され残された原油の環境、生物などのへの影響がどの程度のものであるのか。一方、チリの鉱山事故で、地中に取り残された33人の作業員が全員47日目に無事救助されたのは世界の人々の耳目を集め、やればできるという人命救助に手本を提供した。これからの同様な事故での救助への期待・要求が高くなるであろう。それは大変な責任を企業側に要求することになる。おそらく,事故を起こさないように、安全管理を厳格にするほうが、得策であろう。
人災という点で言えば,2酸化炭素などの温室効果ガスの放出の規制も遅々として進まなかった(12月に入ってのメキシコでのCOPも含めて)。また、生物多様性の減少(多くの生物の絶滅)についての国際会議も開催されたが、有効な手は打たれなかった。これも人災である。あらゆる環境問題は人災だが。
2009年に国民多数の期待を担って始まった日米の新政権(どちらも「民主党」ということになっている)は、どちらも、国民の期待を裏切って、本年行われたアメリカでの中間選挙、日本での参議院選挙で、与党側が敗北、前政権側が復活という完全に同じ経過を辿った。しかも、日米とも新政権は、国民に嫌われたはずの前政権と同じ政策を継続することが明確になってきている。このことは、政党・政治家が政治を行っているのではなく,その背後にある存在(大企業)が政治を左右していて、どの政党が政権を握ろうと、彼らの思う通りに政治が動かされていることを意味する。このような事態では、選挙を主体とする民主主義は形骸化され、国民多数の意思は政治に反映されない。
日米とも、2007年ごろから始まった経済危機を克服できず、特に雇用機会は低迷したままで、回復の兆しがないどころか、さらに悪化する気配がある。アメリカでは、一般市民の経済困難が増す一方、経済危機を招来させた元凶の金融業界は、業績を回復し、それら企業のトップ達の収入は大幅に増大した。そして、国家運営に必要な税については、企業や収入の多い人間達からはより少なく徴収し、消費税など(金持ちにも貧乏人にも同じ)の値上げでカバーしようとしていて、上位と下位の経済格差は増大するばかりである。日本も同様のようである。
また貨幣発行というもののいい加減さ(落合:日刊ベリタ2010.11.13)の結果が、いよいよ各国の財政悪化に反映しだして、ギリシャから始まって、多くの国で財政危機を生み出している。おそらく、これらの財政危機の多くは、持てる個人や企業への税率を上げることによって、かなりの程度緩和できるものであろう。これを果敢にやる人間が政治家にいなくなってしまって、持てる人間の提灯持ちしかいなくなってしまった。それをやらずに、財政引き締めなどで、急激な給料カット、大学授業料値上げなどが実施されると、国民の反撥があることは必定である。現に多くの国で、そのような反撥に基づく反乱が起っている。
さて、東アジアに目を向けると、日中、南北朝鮮間に緊張が走った。日中間では、尖閣諸島での海上保安艇と中国漁船の衝突に端を発して、日中間の関係が急速に悪化した。尖閣諸島そのものは、日清戦争後に日本が領有したことになっていて(沖縄では、あの諸島はもっと早くから自領と考えていたらしい)、中国は長い間、それに異議を唱えてこなかったが、ここに来て、尖閣諸島が中国領であるという主張は、「台湾」や「チベット」がそうであると同程度に重要問題であると宣言している。日本では、政治家もメデイアも、あの事件のヴィデオの流出のみが大問題化されたが、本質的な問題には触れていない。アメリカが日本の尖閣諸島擁護に支持を与えているのは、あの地域がアメリカの東アジアでの中国包囲網の一環をなしているからであろう。
北朝鮮では、金正日の後任が決まり、その権威を国民や外国にアッピールする必要が生じたのであろう。そのため、無理な施策を行っている可能性がある。それが、米国からの相変わらずの脅威に対して、ウラン濃縮技術やミサイルの開発を誇示したり、南北間の緊張関係に断固とした態度をみせようとするなどとなって、表に現れたようである。
一方、南を支配している米国は、北を悪者に仕立てたい意図があるようである。韓国哨戒艇の沈没を北朝鮮によるものと世界中に印象付ける努力は、功を奏しなかった。おそらく北朝鮮はあの沈没に関与していなかったであろう。そして11月になってからの、南北の打ち合い。そして、これを機に、アメリカの東アジアに於ける軍事力を見せつける為の、米韓、そして日米の大規模な軍事演習を行った。アメリカの意図はなんなのであろう。北が「悪者」であると世界に向けて言いつのることによって、やがては、北朝鮮侵攻を正当化しようとしているのであろうか。まったくのウソで、イラク侵攻を正当化したと同様に?
次に日本の安全保障の問題、沖縄の米軍基地の問題について。日本が第2次世界大戦に敗北し、連合国(実質米国)の占領下にかなりの期間置かれた。日本本土は、講和条約により占領状態を解かれたが、沖縄はその時点では返還されなかった。それは、ソ連圏との冷戦状態へ軍事的に対処するのに、沖縄が格好の場所だからである。沖縄を名目上日本へ返還する代償として、沖縄を恒久的な米軍基地にすることが約束された。これは日米安保では、このような約束は日本全域に適用される。
数年前に自民政権下でアメリカと約束された普天間基地返還・辺野古への移設を、民主党は交渉し直し、県外移設を掲げて鳩山政権が誕生したものの,アメリカに屈従させられて、沖縄県民の意思を無視して、結局辺野古移設を約束してしまった。それに代わった菅首相も辺野古移設を継承している。沖縄県民の意思は、無視し、なんとか再選された仲井真知事を陥落させようとしている。この経緯で、沖縄県民以外の日本国民が殆どなんらの意思表示をしていないことを奇異に感じる。
この間に、尖閣諸島問題や朝鮮半島での緊張などで、日本国民は、自国の安全のためには、アメリカ軍の駐留が有利だ、したがって辺野古移設もやむを得ない、だから沖縄県民に迷惑を押しつけたままの状態に目をつぶっているように見える。アメリカの世界戦略を大局的に見て、それに協力するのが、世界平和に貢献するのか、本当に日本の安全保障に有利なのかどうかなどを考えることはないように思われる。人類の歴史の上で、今が重大な分岐点にある。日本は、その位置と戦争体験・原爆体験と平和憲法を基に、世界平和実現に重要な役割を果たせる状態にあると思うが、政治家も国民もそうしたことには意を用いていないようなのを残念に思う。
こうした様々な現象の底流にある、アメリカ政府内の秘密文書や各国間の秘密裏の交渉文書がウィキリークスで暴露された。イラク・アフガニスタンに関する文書は、糊塗されていた実情が暴かれ、アメリカの権威の失墜はあるにしても、現状を覆すほどの影響力を持たなかった。しかし、最近暴露された外交文書は、アメリカばかりでなく、世界各国の外交文書から、表面上の「建前」でなく本音が垣間みられ、本当のことがみられるのは良いとしても、外交上難しい場面が出てくる可能性がある。アメリカを主軸とするNATO連合国がロシアを軍事標的にしていることもリークのなかにはみられ、米・ロの表面上の対話姿勢が今後どのように進展するか。特に、中国が表面上の北朝鮮擁護に反し、北朝鮮政治体制に非常に批判的であることが暴露され、それが今後の東アジアの情勢にどのような影響を与えるか、懸念される。北朝鮮が暴走し、アメリカがそれを口実に北を攻撃するような事態になってほしくない。この間日本はアメリカに追従するのではなく、十分冷静に、緊張緩和、平和維持に役割を果たせるはずである。しかし主要メデイアも政治家、企業家も、多くの国民もそのような意識を持ち合わせているようにはみえない。
2010年では、欧米文明—大量生産・大量消費市場経済体制、軍需依存経済と戦争文明、各国の財政破綻—の欠点・破綻がますます顕著になった。そして、台頭してきたジャイアント中国(そして地誌的に関連するロシア)との対立・緊張増大が顕著になり、近い将来軍事対決に発展する可能性が増大した。残念ながら、この対立は、持続可能性を軸にしたものではなく、単に資源獲得競争(欧米型文明の継承)に基づくように思われる。すなわち、このような軍事対立は、いずれの側が勝利しようと、今のところ、人類文明が自滅する方向性が強い。それを回避しようとする意識をもった人はいるが、それが支配的な位置になるまでには至っていない。
そして12月、またしてもアメリカと日本の政権が同じことを決定した。アメリカでは、高所得者の低い税率を前政権からそのまま継続することにし、日本では、経済界からの圧力で、法人税を5%引き下げた。どちらも高所得層を利し、財政悪化のしわよせが低所得層に及ぶという結果になる。経済はだれが主導しているか明らかであろう。
(なお、将来の持続可能な文明のあり方の例は「アメリカ文明の終焉から持続可能な文明へ」(下記のサイトからダウンロード(無料))をご参照ください。
http://www.e-bookland.net/gateway_a/details.aspx?bookid=EBLS10071200)