『日刊ベリタ』2010年9月26日に掲載された落合栄一郎さんの論考です。
尖閣諸島問題の「常識」再考する冷静さを 領土・海底資源の日中話し合いの契機に
今回の尖閣諸島問題は、小泉政権下の2004年3月24 日に起った尖閣諸島に上陸した中国人活動家を沖縄県警が逮捕した事件の再燃である。それは、尖閣諸島の領有問題をうやむやにして根底的に解決しなかった為に発生した。
今回も、大方は、尖閣諸島が日本固有の領土であるという「常識」に基づいて日本側の対応が行われている。それは、日本が、あの無人であった諸島を1895年に日本領に組み入れたことが歴史的事実で、それに対して中国は、1970年まで異議を唱えなかった。だから、国際法上、この地を日本領とするのは正当である。このような主張は、共産党機関紙「赤旗」ですら行っている。
しかし、あの場所を地図で眺めた時、長い歴史を持つ中国が、あの地に、定住はしなくとも、人を送ったり、漁船や軍事的船舶が立ち寄ったり、駐在したりしたことがなく、中国があの地を自国のもの
だと認識したことがないなどと考えられるであろうか。
2004年の事件に関してその当時発表された高橋義一氏の論考(注)をもう一度思い起こしたい。以下は氏の論考に基づく。
中国では,あの諸島は明の時代から、釣魚台あるいは 釣魚嶼、黄尾嶼(日本名・久場島)、赤尾嶼(日本名・久米赤島、大正 島)などの名で知られていたし、沿岸防衛のための地図にも記載されていた。すなわち中国は、少なくとも明の時代からあの諸島を実効支配していたし、あの諸島について多数の歴史的文献を残している。
日清戦争後のどさくさにまぎれて、日本政府は、終戦の正式文書には領有権が言及されていなかったあの諸島を、日本領にしてしまったようなのである。そして英国の地図に記載されていた「Pinnacle Islands」を翻訳して尖閣諸島という日本名をつけたようである。このような事情を考える時、あの諸島が日本固有の領土であるという主張は正当であろうか。
さて以上の高橋氏の論点を検証する手段を筆者は持たないが、地理的、歴史的に考えて、真実に近いものと考える。しかし、中国は、これに対して長い間異議を唱えなかった。それも事実のようである。おそらく、この問題は、中国国内の様々な大問題(日清/日中戦争、共産革命、建国、文化大革命,経済開発などなど)にまぎれて、意識の外に置かれていたのであろう。しかし、1969年になって、あの海域の海底に化石燃料が大量に埋蔵されている可能性が浮上し、にわかに領有権を主張しだしたのではあろう。
これらの事情を考慮して、今回の事件をただ単に日本の警察権行使の問題で終わらせるのではなく、この期に領土問題/海底資源開発問題を十分に話合うキッカケにすべきであろう。日本人の大多数が思い込んでしまっている「常識」を検討し直すには、非常な抵抗があるであろうが、これを避けていては、いつまでもこのような事件が繰り返されるばかりで、日中関係は悪化するのみであろう。
(注)http://www.jrcl.net/frame040405n.html
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